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ナジックリリース第25号<BR>(2014年9月1日発行)

特集:「キャンパス進化論」

 

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地域貢献・地域連携

都市の知的財産としての大学 まちづくりにおける高等教育機関の役割 (八王子市長 黒須隆一)

聞き手 ◎ 学生情報センターグループ代表 北澤俊和

八王子市には、多くの大学が移転し、キャンパス建設が相次いだ。当初はインフラ整備が追いつかない状況だったが、今や大学は地域活性化に不可欠な存在に。まちづくりにおける高等教育機関の役割について、黒須隆一市長に語っていただいた。


 

 

学園都市としての発展過程

 

――八王子市は、大学、短大、高等専門学校などを合わせ、21のキャンパスが存在する全国有数の学園都市であり、現在、10万4000人もの学生が集まっています。黒須市長はかねてより、大学や学生は同市にとっての重要な知的財産と位置づけられているわけですが、大学とまちづくりの関係について、どのように考えておられますか?

黒須市長(以下敬称略) これまで八王子市には、多くの大学キャンパスがつくられてきましが、特に市として誘致活動を行ったわけではありません。大学進学率の上昇とともに、都心の大学キャンパスは過密状態になっていきましたが、法律の関係で、都心では校舎を増築することができない状況が生まれました。

そこで、郊外に新たに土地を購入するなどして、大学の郊外移転が進められるようになったわけです。それも大きな要因でしょう。八王子市なら、広大な土地を比較的安価で確保できるだけでなく、東京都内ということで、地方からの学生を集めるのに有利だという考えがあったのではないでしょうか。

――大学はすぐに地域に溶け込みましたか?

黒須 ごく初期の段階では、行政や市民と大学との間に、深いつながりはなかったと思います。むしろ市民の中には、「大学が勝手にやってきた」という意識もあったでことしょう。また、当時は必要なインフラの整備も充分に進んでいませんでした。

状況が大きく変化しはじめたのは、1978年に中央大学が移転してきた頃からです。このとき、1万3000人の学生が一気に流入したことにより、「大学を地域における知的財産として関係強化を図り、都市づくりに生かしていこう」という考え方が、地元経済界や行政の間に生まれました。

当初、大学側はあまり乗り気ではなかったようですが、やがて18歳人口の減少が切実になるにつれ、大学にも地域に貢献していこうという意識が生まれ、徐々によい関係が育まれてきたと言えます。

促進される「産=学=公」の連携態勢

――大学と民間企業との関係は、どのように変化してきましたか?

黒須 八王子市には、「ものづくり」を手がける中小企業が約2000社存在しており、そのうちの1割程度は、世界の最先端技術に携わっています。

大量生産するものについては、近年、中国にかなりシフトしてしまいましたが、研究開発型の先端企業、高度な技術を要する多品種少量生産の分野については、わが国が今後も大きな役割を担っていくだろうと考えられます。

一方、工科系の大学では、学問的な立場から高度な研究が進められ、独自に新製品の開発が行われたり、あるいは特許を取得するといった取組みがなされたりしています。ただし、それが大学内で行われている限り、素晴らしい研究成果や、せっかく取得した特許が、実際の製品化にはなかなか結びつかない面があると思います。

そこで八王子市では、我々行政が企業と大学との仲立ちをすることによって、まずは相互の信頼関係構築を促進していきました。そこからさらに一歩進めて、大学と企業との積極的な連携を促し、双方の発展を図ってきたというわけです。この取組みに関し、八王子商工会議所とも連携をとりながら、すでに具体的な成果を上げています。

――行政と大学との連携は行われていますか?

黒須 我々と大学とのコラボレーションという意味では、東京工科大学と基金を拠出し合い、バイオディーゼル燃料の製品化に取り組んでいます。

緑豊かな八王子市では従来、大量の「剪定枝」が出ていました。以前は小さく切って処分していましたが、これを有効に活用して、現在注目されているバイオディーゼル燃料を製造するというわけです。5年で目処をつけるという目標を立てており、この計画が順調に進めば、次に生ゴミのバイオエネルギー化に取り組む予定です。

――大学、企業、行政がそれぞれ協力し合うことで、確かな実績を築いてこられたわけですね。

学園都市として現在抱えている課題

――10万人以上の学生がいるということで、学生が暮らしやすいまちづくりも重要です。
黒須 学生たちの生活面においては、今なおいくつかの問題、課題があると言えます。例えば、大学ができると、周辺地域にはたくさんの学生アパートが建設されます。

ご存じの通り、八王子はのどかで自然が豊かなところですから、子どもを送り出す親の立場からすれば、とても環境がいいということで、ひと目見て非常に安心されます。

ところが、そこに住む若い学生たちにとっては、生活に慣れてくると、やがては刺激や遊び場がほしくなりますし、生活していくためのアルバイト先も必要になってきます。多くの地域でそうした状況が生まれ、郊外のアパートには、学生が定着しにくくなっているのです。

加えて、市街地から離れた大学が多いことから、中心街と各大学との間の交通機関がいまだに充分に整備されていないという問題も残っています。

学生が多いといっても、キャンパスが広域に散在しているため、学生もそれだけ分散しており、例えば御茶ノ水や神田のような、学生たちによるまとまった活気があまり感じられないのも事実です。

これに関しては近く、JR八王子駅の南口で、大規模な再開発事業に着手する予定となっており、同駅から南側にある全ての大学のスクールバスを、駅の南口で発着させるという構想を練っています。

大学側としても、JRの駅からの利便性が飛躍的に向上しますから、学生を集める上でメリットがあるでしょう。最近は、八王子市の全大学の学長や理事長との懇談会を定期的に行っていますが、この再開発にはみなさん前向きに期待されています。

さらに、学生が街の中心に集まる環境をつくることで、市民との交流も促進され、新たな活気が生まれるはずであり、これは行政の役割として取り組むべきものと考えています。

学生と市民との交流の場として、八王子駅前に「八王子市学園都市センター」をつくっていますので、この施設も最大限に活用しながら、都市づくりを進めていかねばなりません。

――学長や理事長と、日頃から意見交換されているというのは、とても有意義なことではないかと思います。現役の学生たちと接する機会もお持ちでしょうか?

黒須 「市長と学生のふれあいトーク」という会合を開催し、学生たちと積極的に話し合う時間をつくっています。各大学でグループをつくって、いろいろなテーマで研究されたことを披露してもらっているのですが、今の学生たちは、おそらく八王子には2年から4年程度しか過ごさないにもかかわらず、地域のことをいろいろな角度からよく勉強していて、驚くようなアイデアを提供してくれることがあります。

例えば、八王子市は、環境問題への取組みの一環として、全国に先駆けてゴミ収集の有料化を実施しました。料金は、指定のゴミ袋を販売することによって回収するわけですが、学生から、そのゴミ袋に「災害時の緊急避難場所」を印刷してはどうかという提案を受けました。

これなどは、実現こそしていませんが、非常に面白いアイデアだと思っています。この他、杏林大学では、「八王子の観光」について、長い間継続して研究していただいていますが、常に問題を的確に捉えておられます。学生たちのこうした取組みには、心から感謝しています。

大学と市民との交流の重要性

――産学公連携以外の面で、大学および学生と市民との交流は、どのような形で行われていますか?
黒須 わかりやすい実績としては、小中学校教員のための「パワーアップ研修」が挙げられるでしょう。これは、大学側の協力を得て、夏休みの間に教員の実力向上を図ろうという取組みです。


現在、八王子には、約2200人の小中学校教員がいますが、このうち約8割にあたる教員が、この研修を受けており、さらにそのうち約9割の教員が、「非常に有意義な研修だった」と答えています。

大変好評であることから、4日間だった研修を、2007年度は6日間に延長しました。大学の先生方にとっても、実際に教育の現場にいる先生方に教えるという行為を通して、新たな刺激があるようです。

もう一つ、学生たちが小中学校に出向き、さまざまな面から生徒たちのサポートをする機会も設けられています。これも高く評価されており、大学と市民との距離は確実に縮まっていると言うことができるでしょう。
――近年開校された「市民大学」の取組みについて、お聞かせください。

黒須 八王子市では、2004年9月に「八王子学園都市大学」という市民大学を開校しました。「いちょう塾」という愛称がつけられたこの大学では、「誰もがいつでも多様に学び豊かな文化を育むまち」という方針を打ち立てています。

文字通り、八王子市民はもちろん、たとえ八王子市民でなくても、18歳以上で勉強したいという気持ちを持っておられる方なら、自由に受講していただくことができます。

これには、市内および市域の24の大学がすべて協力してくださっており、たくさんの講座を提供していただいております。まだ開校して間がないですが、現在約6000人の方々が、何らかの形で受講されております。

年齢層は、今のところ60代が最も多く、70代、50代がこれに続いており、まさしく「生涯学習の場」として、着実に市民に認知されつつあると言えるでしょう。「八王子市学園都市センター」で受講できる講座もあれば、市民が直接各大学に行って、学生とともにキャンパスで受けられる講座もあります。昼間や夜間、週末も開講していますし、無料の講座も一部用意されています。

このように、大学と市民との交流は、八王子の文化の発展に大きく寄与しており、八王子のまちづくりにおいて、大学は、極めて重要な役割を果たしていると認識しています。

黒須 隆一 Kurosu Ryuichi

1942生まれ。武蔵大学経済学部卒業。八王子市議会議員を3期、東京都議会議員を2期務めた後、2000年に八王子市長に就任。八王子市レクリエーション協会会長、八王子市体育協会顧問(現名誉会長)などの要職も歴任している。

大学改革提言誌「Nasic Release」第16号
記事の内容は第16号(2008年1月1日発行)を抜粋し

 

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