Nasic Release ナジックリリース | 教育界における注目テーマごとに、各界の有識者の方々のご意見・ご提言を掲載した提言誌

ナジックリリース最新号のご案内

ナジックリリース第25号<BR>(2014年9月1日発行)

特集:「キャンパス進化論」

 

ナジックリリース バックナンバー

すべてのバックナンバー

 

ナジックの学校支援事業

ナジックの
学校支援事業

教育機関および各機関との連携をはかりながら、学生のための環境づくりを目指しています。

詳しくはこちら

よりよい教育環境の創造を目指して。学校・教育機関のみなさまに対するナジックのサポートはさまざまな分野に広がっています。

学生マンション・学生寮の管理運営
全国の大学・専学校との提携を
活かした募集活動
留学生支援ワンストップサービス
「Nasic Release」の発行
就業体験・アルバイト情報
・就職情報の提供

 

学校・教育機関のみなさま
向けメニュー一覧

就業力育成・キャリア教育

「成長のための成長」から「豊かさを実感できる成長」へ (経済産業省 経済産業政策局長 石黒憲彦)

依然として大企業の大卒求人倍率が低迷する一方で、実力のある中堅、中小企業では高い採用意欲を示している。さらに新たな成長産業が芽吹く兆しがあるなど、これまで注目されていなかった産業や企業の潜在価値を掘り起こすことが閉塞感打開のカギになると考えられている。経済産業省経済産業政策局長の石黒憲彦氏に若者の就業支援や中小企業の価値の見える化など、新たな価値創造につながる政策についてお話いただいた。

 

産業構造・就業構造の行き詰まりから脱する

―― 日本の現状をどのように見ていらっしゃいますか。


石黒局長(以下、敬称略) 我が国を長らく覆う閉塞感の背景には「頑張っても所得が増えない」という状況があると考えています。やりがいを持って仕事に就けないまま技能を身に付けることもできない若者、子育てと両立できる仕事に就けない女性など、活き活きと暮らすことができない人も少なくありません。こうした状況について経済産業省では産業構造審議会新産業構造部会で検討しており、二〇一二年六月に一定の方向性を出しています。 特に大きな課題は二つの構造的な行き詰まりにあると考えています。一つ目は「企業戦略・産業構造」の行き詰まり。規格化された製品の大量生産で成長を目指す従来のモデルで新興国と競っても、賃下げ・値下げの「やせ我慢」に陥る一方です。もう一つは「就業構造」の行き詰まりです。高度経済成長期に形成された「終身雇用・正社員・男性中心」の就労モデルは既に限界を迎えています。時間当たりの労働生産性は主要先進国に比べて二割程度も低くなっています。長時間労働で生産性を確保する労働文化ではワークライフバランスを望むべくもありません。 日本では労働生産年齢人口が急減していますが、女性が出産・育児で退職するために三〇歳代の労働力率が下がる「M字カーブ」は依然顕著です。仮に女性が働き続けてM字カーブが解消されれば、潜在労働力人口三四二万人が職に就き、就業者は約五%増えます。雇用者報酬額に換算すると七兆円の増加が見込まれ、このうちの七割が消費支出に回ればGDPは一%増加しますから、この数字は極めて大きいのです。


―― 二つの行き詰まりを打開するためにどのような政策が必要でしょうか。

石黒 重要なのは「成長のための成長」ではなく「豊かさを実感できる成長」へ転換することで、その具体的な取り組みの一つが新しい成長産業の創出です。すなわち、日本人ならではの感性や技術力を発揮して潜在内需を掘り起こし、旧来の「大量生産・価格競争」モデルから、高くても売れる商品やサービスを生み出す「価値創造」モデルへと転換を図り、成熟した豊かさをもたらす新産業を創出するのです。例えば、機械や自動車などのものづくり産業ではすり合わせ力(チーム力)や現場力が優れており、この強みを今後どのように磨きをかけ、システム化してインテグレートしていくかが重要だと考えています。また、サービス産業では日本人は当たり前だと思っている、客の要望に応じた日時指定に正確に対応してくれる旅客サービスや宅配サービス、カワイイという流行を国内外に発信し続けるファッションなどのコンテンツ産業は、非常に国際競争力を持っています。また、従来、公費負担のみで供給されていた医療・介護、子育てなどのサービスは、利用者ニーズが増大する一方で、財政事情から広げられない。このため、公費以外の周辺サービスも一緒に付加していくことで、ニーズを満たした多種多様なビジネスクラスのサービスが生まれる。日本では、元来、医師や看護師のきめ細かなおもてなし精神があるわけで、このように、日本には、国際競争力を秘めている価値創造の萌芽が、「グリーン産業」「生活産業」「クリエイティブ産業」「ヘルスケア産業」などにおいてたくさんあります。 一方で、そうした価値創造の原動力は「人的資本」ですから、女性、若者、高齢者、障がい者を含むすべての人が価値創造に参画し、成長を分配することで活き活きと働く人々が増える経済を実現していきます。 具体的には、①「ダイバーシティ・マネジメント」の醸成、②「イノベーション人材」「グローバル人材」の育成、③産業構造・企業戦略の転換にも適応できる円滑な労働移動と学び直し機会の整備、という三つの方向性です。これによって日本の社会に再び「厚みのある中間層」を形成し、人口が減少しても一人当たりの国民所得を維持・増大し、成熟した豊かさを実感できる社会の実現を目指したいと思います。



若者の就業環境改善のカギは三つのミスマッチの解消


――最近の雇用状況、特に若者の就業についてどのように感じていますか。

石黒 二〇一一年度の大卒の就職率は依然として過去最低水準の九一%で、大企業の大卒求人倍率が〇・六五と低迷しているのに対し、従業員三〇〇人以下の中小企業では求人倍率が三・三五と高い採用意欲を示しています。この数字は学生が中小企業を就職先の一つとして視野に入れるのが遅い「タイミングのミスマッチ」、就職活動をしている大都市圏の学生と地域の採用意欲ある中小企業との接点が希薄な「地域間のミスマッチ」、学生の職業観や社会人基礎力が企業の要求水準に達していない「職業観や能力に関するミスマッチ」という三つのミスマッチに起因していると考えています。さらに、中小企業の魅力が十分に伝わっていないことも大きな要因の一つです。 これらの課題を克服するためには、「若者に対する意識改革や人づくり」と「中小企業などの潜在価値の見える化」の両面で対処することが重要です。 世の中には、大企業に負けない、すごい技やおもてなしを持った中小企業がたくさんありますが、まじめな中小企業は、控えめなので自分たちの魅力を語らないから、誰かが語ってあげるべきだと思います。そうした魅力を、大学早期から語ることで、学生に中小企業へ目を向けてもらったり、就職活動期にタイミング良く学生に中小企業の仕事の魅力や採用情報を伝えたり、大都市圏の学生に地域の中小企業の採用情報を伝えやすくしていくことで学生の意識を変えていくことが大事だと考えています。 現在、厚生労働省と連携し、全国四六カ所(※)で、若者へのキャリアカウンセリングや、企業と若者との交流などの場を設けるジョブカフェ関連事業を展開しています。また、地域の中小企業団体などと大学とが連携し、中小企業と学生との交流会やスキルアップ支援といった事業を実施するなど、若者の就業促進に取り組んでいます。 職業観や能力に関するミスマッチの解消についてはキャリア教育コーディネーターの育成支援や、キャリア教育アワード「経済産業大臣表彰」を行っています。また、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三つの能力(一二の能力要素)からなる「社会人基礎力」を浸透させるため、「社会人基礎力育成グランプリ」を開催しています。これは大学教育の一環として取り組んだ育成事例とその成果を発表するもので、二〇一一年度は八八大学一〇八チームが参加しました。 また、中小企業の魅力を学生に伝達するため、企業自身も気づいていない潜在的価値を見える化し、対外的に発信していくことで企業ブランドを高めることが大切だと考えています。 経済産業省では「元気なものづくり中小企業三〇〇社」「ハイ・サービス日本三〇〇選」「雇用創出企業一四〇〇社」、今年度からは「おもてなし経営企業選」「ダイバーシティ経営企業一〇〇選」などを開始し、優れた企業の掘り起こしと全国的な情報発信に努めています。
 


「志本主義」を導入し元気な企業・産業を創成

 
―― 石黒局長が積極的に発信しておられる「志本主義」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

石黒 ものづくりの世界でもサービスの世界でも、元気な企業は一様ではありません。業態、文化、風土、人材による違いもありますし、社員のやる気を引き出す施策も千差万別です。しかし、そのすべてに共通しているのは「モチベーションを持たせる」「明確な方向性を示す」という点です。そして多くの元気な企業は企業理念が明確で、戦略を持ち、社員がのびのびと働き、会社文化があり、長期雇用(終身雇用)が原則で、社員の誰もが「会社が好き」だと言います。 企業においては、「志」を持った仲間が集まることで、「夢」が実現される。「志」のある人、熱い思いを持った人たちが集まれば、その企業の活性化が実現する。「元気な企業」は社員にやる気がみなぎっている。ミクロの人間の「やる気」が、マクロの組織力を生み出す源泉なのです。このような「志」を持った人々が集まり、事をなすこと。これが「志本主義」であると考えています。


――「志本主義」の導入で、企業と社員の意識はどう変革するでしょうか。

石黒 行き過ぎた利益中心主義やコンプライアンスの強化などは、かえって社員の志気を低下させる原因になります。元気な企業は、ほとんど例外なく、経営者と従業員との濃厚な対話があります。人をコスト要因として見るのではなく、知を生み出し、付加価値を高める主体的存在として捉える。その創造力によって生産革新を絶え間なく繰り返していくのです。 優秀な経営者は、社内の生産拠点や営業拠点を回って社員との対話にその時間の大半を費やしているものです。彼らは対話を通して従業員に働きがいや目標などを伝え、動機付けをしています。それと同時に経営者自身もリーダーとしての自覚と現場感覚を吸収し、現場と経営戦略の乖離を修正していくのです。その結果、劇的な場面がなくても、しなやかに経営戦略の実現に向けて一致団結して進んでいきます。場合によっては会社の置かれた厳しい状況を従業員に率直に話し、従業員に痛みを伴う改革を迫るかもしれませんが、対話があればこそ、そうした要求も受け入れ、みんなで乗り切ろうとする姿勢と意欲が湧いてきます。その信頼関係の中で、社員の意識は企業の一部となり、前進していくのだと思います。
 


ワークプレイスメントは中小企業の潜在価値発見にも


――ワークプレイスメントという就職活動支援についてのご感想や期待についてお聞かせください。

石黒 ものづくりや、サービスを支えているのは人材ですから、人づくり政策は極めて重要だと考えています。とりわけ、企業や組織に新しい息吹を吹き込むためには、学生など将来を担う若い人たちの活躍が欠かせません。 学生はワークプレイスメントを通して地域の優良な中小・中堅企業と出合い、実際の就業体験によって“働くこと”に対する価値観が醸成され、学生自らの適性や企業理解を深めることで就職と真剣に向き合うステップの一つになり、いずれ世界に通用する生きた人づくりにつながると考えられます。また、企業はワークプレイスメント事業への参加により、潜在価値を“見える化”する良い機会になると思います。これまで企業自らがその価値(魅力)に気づいていなくても、ワークプレイスメント事業を通して広く知られることで、価値(魅力)が顕在化し、事業経営にもプラスに働くと考えられます。経済産業省としては、ワークプレイスメント事業も含め、雇用のミスマッチ解消につながる複線型の就職活動支援のサービスがどんどん創出されて、学生の就労体験や機会が増加していくことに期待しています。

 

 

 

ナジックリリース第24号・記事一覧

「成長のための成長」から「豊かさを実感できる成長」へ (経済産業省 経済産業政策局長 石黒憲彦)


学生と中小企業とのマッチングの在り方 (厚生労働省派遣・有期労働対策部長 宮川晃)


二十二世紀にも輝き続ける、世界屈指の大学づくりと人材育成 (大阪大学 総長 平野俊夫)


「違いを共に生きる」を理念に掲げ、時代や社会に対応できる多様な人材を輩出 (愛知淑徳大学 理事長・学園長 小林素文)


キャンパス再構築で学びの機会を増やし、世界に貢献できる人材を育てる (青山学院大学 学長 仙波憲一)


「オール近大」の力を結集し、実学に基づく創造性豊かな人格を形成 (近畿大学 学長 塩崎均)


強い「個」を育成し、世界に発信 二〇二〇年に向けた人材育成 (明治大学 学長 福宮賢一)


イベントレポート 「ワークプレイスメント2012」 (ワークプレイスメント2012実行委員会)


レポート 「甦れ!日本 高校生アスリート作文コンテスト」